2回目のキャバクラから暫く経ったある日、
社内の同僚が私に声を掛けてきました。
「なあ、一緒に行って欲しいキャバクラがあるんだけど・・・」
藪から棒だな・・・。
どうしたんだ、いきなり。
同「俺の知り合いがオーナーをやっている店でさ。
ママが愛人を作ったって噂があるらしいんだ。」
私「そりゃママなんだから愛人の一人でもいたっておかしくないだろ?」
同「もともとオーナーの愛人だったんだ。
で、その新しい相手が自分の友人なんじゃないかって」
私「んだよ。まさか初めて行く店で「ママの愛人は誰ですか?」って聞けってか?
無理だよ」
同「んなこた分かってるよ!帰る先さえ分かればいいんだ。」
私「?」
同「最近、ママは自分の家に帰っていないらしいんだ」
私「何で知ってんだよ」
同「その噂を確かめる為にオーナーがママの家を見に行ったんだって」
ストーカーかよ・・・。
同「だから帰る先さえ分かればいいんだ」
私「マジかよ。大体何で俺なんだよ」
同「だってお前キャバクラ好きじゃん。俺、そういうところ行かないしさ」
好きじゃねーよ。
つーか何でオーナーもこいつに頼んだんだ?
同「なあ頼むよ。オーナーには本当お世話になってんだ。」
私「俺、金ねーよ」
同「そこはオーナーから貰ってるから大丈夫」
こいつ出来もしないくせに金受け取ってやがる・・・。
私「分かったよ。でも期待すんなよ。」
同「オッケー、オッケー。んじゃ今日な!」
早いな・・・。
そんなこんなで探偵ごっこをすることになったわけです。
まず同僚の家の近くで待ち合わせをして、その店へ向かいました。
雑居ビルの地下で、誰かの紹介なしには気付かないような場所でした。
私「おい、まさかここ会員制だったりしないだろうな?」
同「知らん。そんなことは聞いてない」
・・・。
まあダメならダメでいいか。
私は思い切ってドアを開けました。
一斉に浴びる視線。
一呼吸おいて、
「いらっしゃいませ、ご新規ですか?」
とホステスに席を案内されました。
今思うとボーイもいないし、カウンターがあるのでキャバクラではなくスナックでしたね。
何人かホステスが席に付くなり、
「この店はどこで知ったんですか?」
と聞かれました。
ヤバイ・・・。何も考えてなかった。
確かに適当にブラつくだけじゃ気付かないよな・・・。
「ビルの前に花があったので!」
同僚が勢いよく答えました。
よく見てたな・・・。
「あ、そうなんですね。昨日、誕生日の子がいたんですよ。
ウチ、普段常連さんしか来ないからビックリしました。」
なるほど。
だから変な視線を浴びたわけだ。
「でもそんな理由で来られるだなんて、こういうところ好きなんですね(笑)」
「はい!こいつが!!」
結局俺かよ・・・。
そんなこんなで終始私はイジられキャラになってしまいました。
しかしママと仲良くならなくては進展ないぞ・・・。
どうしようかと考えている時に、
私の隣に若くて可愛い娘が付きました。
ベテランそうなホステスが、
「若い方は私みたいなおばさんじゃなくて、若い娘がお好きでしょ?」
とのことです。
何でもこの娘は入ったばかりで、こういう店で働くのも初めてとのことでした。
私の水割りを作る時に、
ウイスキーをドバッと入れて、水をドバッと入れて、ぐるぐるかき回す様は、
おしとやかそうな外見とは裏腹で思わず笑ってしまいました。
私「ウイスキー入れすぎだよ(笑)」
嬢「すみません、テキトーで!!」
私「いいよ、いいよ。面白い。こんな可愛いのにこんな豪快で(笑)」
嬢「可愛くないですよー。あ、こんなもんでいいですか?」
私「スゴイ!ウーロン茶みたいだ(笑)」
嬢「あはははは!ごめんなさーい!」
ベテラン「ちょっと○○ちゃん・・・」
私「あ、いいですよ。初めてのパターンで逆に気に入っちゃいました」
ベテラン「よかったわね、優しい方で・・・」
嬢「すみません、勉強します。」
向こうが始めてとのことで、こちらも気負うことなく対応することができました。
ああ、何か普通に話せたら楽しいなぁ。
相変わらず同僚は私をいじって楽しんでいるし、
それでホステス達も盛り上がっているので、私は徹底的にMキャラを貫きました。
するとベテランホステスが、
「ウチのママがドSなんですよ。芦屋さんみたいな方が大好きでしてね。」
と言ったので、これはチャンスとばかりに、
「うわ~。ママに虐められたいわ~」
と言うと、
「ママ~!!」
と本当に呼んでくれました。
ママ「な~に~?」
ベテラン「彼、すごいMでママにいじられたいそうですよ!」
ママ「あら嬉しいわ!」
そこからは自分でも泣きたくなるくらいMキャラを作り上げて、
かなり場を盛り上げていきました。
これは俺じゃない、と演じることによってタガが外れ、
普段じゃ言えないような歯の浮く台詞なんかも言っちゃったりして、
もうどうにでもなれ!って感じでしたね。
しかしその勢いで、ママの私生活が聞けたり、
自転車で帰っているという話も聞けたので、
今後動きやすくなったのではないでしょうか?
とりあえずオーナーから貰った分の料金くらいになったので、
この店を出ることにしました。
同僚「サンキューな!やっぱりお前を連れてきて良かったよ!」
私「そうかい、疲れたよ俺は。で、この後どうすんの?」
同僚「俺、家からチャリ持ってくるよ。お前ん家遠いからもう帰っていいぞ。」
私「おお、んじゃ頑張れよ。」
そんなこんなで3回目のキャバクラ(スナックだけど)が終わったわけです。
ある程度目的が果たされたということと、
自分の行動で周りを笑わせられたことで、私の気分は高揚していました。
「あ~、何か楽しかったな!」
そう思いながら帰路につきました。
後日、同僚からうまくママの帰宅先が分かり、
オーナーが懸念していた通りに、友人の家だったということを聞きました。
「へえ、そりゃ泥沼になるな」
なんてシビアに会話をしていましたが、
一人先輩が近づいてきて、
「お前、真面目なフリして実はドMなんだって?」
と言われた時は同僚を引っ叩こうかと思いましたね。
お陰で『芦屋はキャバクラの帝王』と冷やかされ、
ついに社長の耳に入ることになったのです。
続く