「おい、芦屋。」
社長に呼ばれました。
私の上には先輩や上司がたくさんいるので、
直接呼ばれることは滅多にありません。
(何かしたっけな・・・?)
内心私はドキドキしていました。
心当たりはないけど、社長に呼ばれるということは怒られると思ったからです。
社「お前さ、今日空いているか?」
私「はい!何なりとお申し付け下さい!」
社長から直接仕事を与えられたと思いました。
社「ちげぇよ。仕事が終わったら空いているか?ってこと」
私「はあ・・・。と、言いますと?」
社「たまにはお前と飯食おうと思ってんだけどさ。」
私「ありがとうございます!ご一緒させて頂きます!」
社「おう。じゃ19時に行くぞ。」
私「はい!」
とは勢いよく返事したものの。
(社長と飯食うなんて生きた心地しないよ。ヤだなぁ・・・。)
と思っていたわけです。
社長は怖いし、今までロクに会話もしたことないのに、
何を思って私なんか誘ったのだろう?
もしかして、地方に飛ばされるとか・・・?
それとも嫌な仕事を押し付けられるとか・・・?
それしか出てこなかったわけです。
はっきり言ってその日は仕事が手につきませんでした。
19時。
私は社長と繁華街に移動して、
「ここ好きなんだ」
と言っていた、高そうな(高いんだけど)店に入りました。
(何だここ!どれを注文しても1品2000円近く掛かるぞ・・・。やっぱり俺、飛ばされるのか??)
そんな私の心配をよそに、社長はどんどん注文していきます。
殆ど喉を通らなさそうでしたが、
「ほら、食えよ。」
と言われたので、
「ありがとうございます!!頂きます!!」
と言いながら、無理やり胃に押し込んでいきました。
(何だよもう・・・用件は早く言ってくれよ・・・。)
1時間ほど時間が経ち、食事が全部終わった時に社長が切り出しました。
社「お前さ。」
私「はい!(来た!何言われんだよ!?)」
社「キャバクラ好きなんだって?」
私「は・・・?」
社「皆言ってんぞ?」
私「(遊んでばかりだと思われているのか!?)いえ、特別好きとかそういうわけでは・・・!」
社「連れてってやるよ。」
私「・・・はい?」
社「俺、昔何店か権利持ってたんだよ。今は売ったけどな。だから好きな奴の気持ちは分かる。」
私「・・・・。」
社「嫌ならいいぞ?」
私「いえ!ありがとうございます!(この状況で断れるか!!)」
そんなわけで社長と2人でキャバクラへ行くことになったのです。
社長はというと、予め決めてるのか決めていないのか全く読めない様子で、
「ここに行くか」
とさっさとドアをくぐっていきました。
さすが経営者。決断が早い。
「いらっしゃいませ、ご指名は御座いますか?」
「ないよ」
・・・お気に入りの店ではなさそうだ。
社長はドカッと腰を降ろし、私は少し離れてちょこんと座りました。
(こえぇ!生きた心地しねぇ!)
ホステスが付いたけれども私は大きな声で話はせずに、
ジッと社長の様子を伺っていました。
社「おい、芦屋。」
私「はい!」
社「もっと離れて座れよ。」
私「はい?」
社「お前が近くにいるから落ちつかねぇよ(笑)」
と笑い掛けられ、その時私はハッとしました。
私が緊張しているのに気がついて、気を遣っていただいていると。
なのでもう少し離れて座り、社長は見ずに楽しむことにしました。
普通、こういう時は接待と同じようなもので、
顧客に気を遣いながら自分が楽しむのを抑えるものですが、
社長はどうやらそれを嫌がるらしい・・・。
ということに気が付くのはもう少し後の話ですが、
離れろと言われた手前、私はその通り従うことにしたのです。
ボーイが呼びに来て
(もう、1セット終わる時間だな・・・)
と立とうとしたら、
「ああ、帰りたい時に帰るから呼びに来ないでいいよ。」
と社長はボーイを下がらせました。
(な・・・・何だと?)
今まで1セット、もしくはもう1セットくらいしかいたことのない自分には、
その発言に衝撃を受けました。
結局、この店に4時間くらいいましたが、
社長の動き一つ一つが気になりすぎて、あまり覚えていませんでした。
社「よし、芦屋。」
私「(解散だな)はい!」
社「もう一件行くか」
私「(マジか~!どんだけ金使うんだよ!)ありがとうございます!」
そこから別の店にも行き、
社長とキャバクラ塗れの1日が終わりました。
私「社長!今日はありがとうございます!!」
社「おう、明日も行くぞ。」
私「・・・はい?」
社「嫌ならいいぞ。」
私「いえ、ありがとうございます!!」
その日から私はちょくちょく社長とキャバクラへ行くようになりました。
私も社長というキャラクターがよく分かり、
今ではお互い楽しむことに終始するようになり、社長も私を気に入って下さいました。
多分、社長も私というキャラクターを見ようとしていたのだと思います。
余りにも接点がなかったので、その中で『芦屋はキャバクラが好きらしい』
ということのみの情報を得、私を連れ出したのだと思います。
一見、すごくぶっきらぼうに見える社長ですが、
社員のことを凄く大切にしていることが分かりました。
私も社長とどこかへ行くことにも慣れ、
自然に会話ができるようになって暫くした時に言いました。
「お前とのこの時間が楽しみだよ」
社長は会社では鬼社長としてならしているので、
あまり近づこうとする人がいないんですね。
ですが私はキャバクラという限りなくプライベートな時間を共有しているので、
社長は私には冗談を言いますし、私も冗談で返したりすることが出来るようになりました。
周りはそれをハラハラして見ているらしいのですが、
社長も「ハッハッハ!」と笑っているのを見て、
こいつ社長に何をしたんだ!?と不思議がられています。
そういう関係を築けたということでも、私はキャバクラに感謝しています。
次回はどっぷりキャバクラにのめり込んだ話と、
社長とキャバクラ対決をした時の話をしたいと思います。